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zoom RSS 最果ての国(15)ノン・ドッグ

<<   作成日時 : 2017/06/17 20:41   >>

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横内正彦-著 
15.ノン・ドッグ

1月1日午前11時58分――
「やあ、チャーリー!」
中央監視室から顔を出したアベルソンに対し、フリードマンが大きな声で呼びかけた。「George Murray Ellington.Non-Dog」と書かれた紙を差しだして、
「この紙が展望台の石碑に貼られていた。大至急、ジョージ・マレー・エリントンとノン・ドッグに関することを調べてくれ! 大至急だ!」
アベルソンは眉根をよせながら、その紙を受けとった。すると、
「あなた、憂い顔がいいわね」
と、そばにいたマルメラードフが言いだした。
アベルソンはさらに眉根をよせ、
「あの……どちらさまですか」
と聞いた。
「あたしは太平洋園の客人ミハイル・ヴィクトロヴィチ・マルメラードフよ。ミーシャって呼んでちょうだい」
マルメラードフは右手を差しだした。
アベルソンは、この奇妙な男性と握手をかわし、
「従業員のチャールズ・アベルソンです。チャーリーと呼んでください」
と言った。
「私はルペラケ・シラセ。南極点基地のドクターです」
シラセも、すかさず名前を名乗った。
アベルソンはシラセと握手をかわしながら、
「ドクター・シラセ。チャーリーと呼んでください」
と言った。それからフリードマンの顔を見て、
「警部補。中央監視室は狭いので、扇形ホールでお待ちください」
と告げた。
「どれぐらいかかる?」とフリードマン。
「10分もあれば……」とアベルソン。
「頼むぞ」
とフリードマンは言って、アベルソンの肩をたたく。

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午後0時9分――
「皆さん、お待たせしました」
扇形ホールのカウチで座っていた一行に対し、大きな手さげ袋を持ったアベルソンが声高に言った。
「おう、こっちに来てくれ!」とフリードマンが右手をあげて合図した。
フリードマンの横に座ったアベルソンは、袋の中からノート・パソコンを取りだし、操作をはじめた。そして液晶画面を指さし、
「必要な情報は、この文書に入っています」
と告げた。
「じゃあ、聞こう。ジョージ・マレー・エリントンってのは何者だ」
「英国の鳥類学者です。1878年にロンドンで生まれています。父親は外科医のハリー・エリントン、母親は内科医のキャサリンです」
「医者の子かあ。ジョージの学歴と職歴は?」
「ノーフォーク州のグレシャム校に通った後、オックスフォード大学のウィンチェスター・カレッジで自然科学を学んでいます。で、卒業後にダーリントンホール校の生物学教師になっています」
「ジョージとイヌの関係は?」
「ジョージは大のイヌ好きでした。生涯に12匹のイヌを飼っています」
「ふむ。イヌの肉に関する発言は……?」
「晩年に、こんなことを言っています。イヌはもちろんのこと、ブタもウシもヒツジもトリも食べるべきではない、って」
「じゃあ、ベジタリアンだったのか」
「子供の時からそうだったのかどうか……それは分かりません。病死する半月ほど前に、こんな書状を残しています。『私は自分の全財産を菜食主義の子孫に与える。すなわち、肉をまったく口にしない子供と孫に与える。例外は認めない』」
「そうかあ……」
とフリードマンは言って、下あごを撫でた。
「もうひとつ、聞こう。ジョージと石碑。何か関係があるだろうか」

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「関係はあります。ジョージは一時期、ロバート・ファルコン・スコットの部下でした。
1909年の秋、ジョージは英国南極探検隊の一員に選ばれ、翌年の6月、スコットとともに南極に向かっています。そして1911年1月、南極のマクマード湾に上陸し、越冬しています。この年の11月1日、スコットがひきいる馬ゾリの本隊はロス棚氷のエヴァンス岬から南極点に向けて出発しています。でも、ジョージたち――6人の科学者――はエヴァンス岬付近にとどまり、科学的探査をつづけています。
で、ジョージは帰国後、アデリー・ペンギンに関する論文を発表しています」
「どんな論文?」
「詳しいことは分かりません」
「ふむ」
「ちょっと驚いたことがあります」
「何だ」
「ドナルド・エリントンはジョージ・エリントンの孫でした」
「ホントーか」
「はいっ、本当です。ジョージの次男バーニーが米国に渡って米国人のオルガと結婚しています。で、この二人の間にドナルドが生まれています」
「ん、そうか!」
急にフリードマンは手をたたいた。
「エリントンが菜食主義者だったのはジョージの影響か! チャーリー!」
「何でしょう」
「すまんが、もう少しジョージのことを調べてくれ。それから……ノン・ドッグと書かれた紙をかえしてくれ」
「えっ? は、はい!」
アベルソンは戸惑いの声をあげながら手さげ袋の中をのぞいた。そこから一枚の紙を取りだし、
「どうするんです?」
と聞いた。
「誰が書いたか調べる」
とフリードマンは言って、支配人の顔を見た。
「支配人。これから各客室をまわる。同行してくれ」
「分かりました」
支配人は神妙な顔でうなずいた。
「あのね、警部補! あたしは同行しないわよ!」
とマルメラードフは突然、強い口調で言った。それからアベルソンの顔を見て、
「ねえ、チャーリー! あなたのところに行ってもいいかしら」
と柔らかい口調で聞いた。
「え、ええ」
アベルソンは眉間に縦じわをよせながら、うなずいた。
「あの……私も行っていいでしょうか」
と、シラセは頭をかきながら聞いた。

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